2021-05-07
2021-05-07

WHOが新型コロナウイルスによるパンデミックの認識を示してから1年。年単位に及んだ外出や交流の自粛は、世界的に大きな消費行動の変化をもたらした。

特に大きな影響を受けた製造業・小売業では、実店舗以外の販売チャネルを持つD2C(Direct to Consumer)と呼ばれるビジネスモデルが再び注目されている。本稿では現在のD2Cの定義や、市場の動向について解説する。


D2Cとは?

D2Cとは

D2Cとは

D2CとはDirect to Consumerの略語だ。メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、仲介業者を挟まず、直接顧客へ販売するビジネスモデルを指す。2000年代後半に米国で話題になり、日本でも2010年代から盛り上がりを見せた。

当初はSPAと比較して「EC販売に特化した直販型のビジネスモデル」とされたこともあったが、近年はD2Cブランドが実店舗へと進出したり、逆に店舗を持つブランドがECに注力したりと、時を経てその境目は曖昧になりつつある。

D2CとSPA(製造小売業)の違い

SPAはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略語。
日本語では製造小売業と呼ばれ、1990年代頃に話題になった言葉だ。大手にGAP、H&Mなどのアパレルメーカーがあり、こちらも製造からプロモーション、小売までを、一貫してメーカーが行うビジネスモデルを指している。

SPA興隆以前、メーカーは製造卸として商品を小売店に卸し、小売店がそれを仕入れて販売を行うことが一般的だった。こうした中間マージンを極力省いてコストを圧縮しつつ、消費者のニーズを直接的にキャッチアップすることで、より効率的なサプライチェーンを実現したのがSPAである。
 

「製造した商品を直接消費者へ販売する」 という観点で見れば、SPAとほぼ同義に思えるD2C。その大きな特徴は主戦場とする販売チャネルと、彼らが重視する情緒的価値にある。

D2Cの特徴1:実店舗からオンラインへ

一つ目の特徴は販売チャネルだ。SPAが実店舗を通じたオフライン販売に重きを置くのに対し、D2Cは自社ECやオウンドメディアを通じたオンライン販売を主戦場としている。実店舗の維持コストを削減することにより、質の高い商品を更にリーズナブルな値段で提供したのである。

Warby Parker公式サイトより引用

Warby Parker公式サイトより引用

著名な米国D2Cメガネブランドの「Warby Parker」は、まさしくオンラインによる直接販売でその名を馳せた企業だ。それまで眼鏡の販売は、視力検査・試着・販売といった一連の流れを、実店舗で行うことを慣例としていた。

一方、Warby Parkerはすべてのプロセスを自宅から完結できる。 視力検査は専用のアプリで実施。WEBストア上で試したい眼鏡を選ぶと、無料で自宅へ郵送され、試着してから購入できる。こうした仕組みは若年層を中心に受け入れられ、既存企業による寡占状態が続いていたメガネ業界に一石を投じた。

 
このようにオンラインを活かして販路を開拓する一方で、近年は積極的に実店舗の出店を進めるブランドもある。2020年に米国で上場したマットレスのD2Cブランド「Casper」は、北米を中心に直営の実店舗を展開している。

また、ニューヨークのSOHOに拠点を構える複合施設「Showfields」では、アパレルやインテリアを中心にしたD2Cブランドの展示販売を実施。”世界一面白いお店”と称して、D2Cブランドと顧客の接点を設けている。

 
こうした原点回帰ともいえる動きの中で、2021年現在のD2Cは当初評されていたような”オンライン版SPA”の枠組みを抜け、新たなステップへと足を踏み出しているといえそうだ。

D2Cの特徴2:情緒的なブランディング

D2Cのもうひとつの特徴が、体験やストーリーを重視したブランディングである。
例えば先述したCasperは、自らを「マットレスを安価にオンライン販売する会社」ではなく、 「スリープエコノミーの会社」 だとしている。

casper S-1資料より引用

casper S-1資料より引用

”Our vision is to be the world’s most-loved and largest sleep company. We believe we’re the only company that thinks about sleep the way that people do, and that’s what drives our success. ”
 
私たちのビジョンは、世界でもっとも愛され、もっとも大きい「スリープカンパニー」になることです。眠りについて、人々と同じように考える企業は当社だけだと信じており、それが私たちの成功の原動力となっています。
casper公式ホームページより引用

この言葉を体現するように、Casperは主力商材であるマットレス以外にも、ペット用のベッドや、昼寝ができる休憩スペースなど安眠にまつわる商材を多数展開しているのだ。

D2Cにおいて「プロダクトではなくライフスタイルを売る」というビジネススタイルは、オンライン販売と並ぶ重要な要素である。

D2Cブランドは自社EC、SNS、商品の梱包に至るまで一貫したストーリーテリングを行い、消費者を自らの世界観に誘導する。消費者はある種のファンとなって、世界観の中で購買行動を行う。ブランドはダイレクトに得た顧客データを反映して、ふたたび消費者に語りかける。

Direct to Consumerの真価はここにあるといえるだろう。
 

コロナ禍で脚光を浴びたD2C

D2C自体は10年ほど語られてきた言葉であり、ビジネスモデル自体に大きく新規性があるわけではない。再度注目を浴びたのは、新型コロナウイルス起因の移動制限により、実店舗販売の根幹が揺らいだからである。

そもそも、日本におけるEC市場自体は、コロナ禍以前から伸長傾向にあった。
令和元年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、19.4兆円(前年18.0兆円、前年比+7.65%増)、EC化率は6.76%(前年比0.54ポイント増)に拡大。BtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は352 兆円(前年344.2兆円、前年比2.5%増)、EC化率は31.7%(前年比1.5ポイント増)に増加した。

令和元年度 電子商取引に関する市場調査より引用

令和元年度 電子商取引に関する市場調査より引用

また、株式会社ジェーシービーと株式会社ナウキャストが行った2020年1月から12月までの消費動向調査では、ECの指数は全年齢層で伸びており、いずれの月でも好調に推移。年齢層が低いほど伸びが顕著となる傾向だった。

「JCB消費NOW」による2020年消費動向総括]より引用

「JCB消費NOW」による2020年消費動向総括]より引用

こうしたEC化の流れはコロナ禍以降も続くのだろうか。
アクセンチュアが2020年に行った日本国内における業種別時価総額の変動の調査では、小売業の受けるインパクトは他の業界と比較しても大きいとされている。

https://businessnetwork.jp より引用

https://businessnetwork.jp より引用

コロナ禍以前の動きを踏まえても、オンラインとオフラインを跨いだ販売戦略は、未来のスタンダードになると予見される。

この記事は前編です。後編では具体的な事例とともに、D2Cを支える新たなビジネスや、代表的な国内ブランド、今後の市場動向について解説します。

この記事を書いた人
ムラキ
bosyu / bosyu Jobs / Jobs Primeのプロダクトデザイナー。たまにライターとして経済メディアで記事執筆したり、他のプロダクトのお手伝いしたりもしてます。
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