2021-06-07
2021-06-07

フィンテックと呼ばれる金融領域 × ITの中でも、取引額が大きく、現在注目を集めるのがBtoBの決済領域である。特に商慣習的に緩やかな変化だったBtoBの決済領域は、現在多彩なプレーヤーの進出により、大きな変化を遂げている。本稿ではBtoB決済領域の概要や市場規模、ならびにその領域で注目されるトピックについて解説する。


旧来の商慣習からの脱出を続けるBtoB決済領域

フィンテックという言葉から想像されるサービスはどのようなものだろうか?スマートフォンが普及した現在では、はじめに想起されるのはPayPayを代表とする電子マネー、ビットコインのような仮想通過など、BtoCのサービスが多いのではないだろうか。PayPayのような大規模なキャンペーンを実施したサービスが、短期間で爆発的な認知の獲得と利用者の拡大を果たしたのは記憶にも新しい。

一方でBtoBのフィンテックのサービスとしては、上場を果たしたfreeeやマネーフォワードのようなクラウド会計サービスがあがってくるだろう。一方でBtoCの領域と比較すると、それほど知名度のあるサービスや会社は少ない。しかし、現在このBtoBの領域で、特に決済を中心に大きな地殻変動が進んでいる。そのキーワードは「EC化」である。

※本稿で述べる「EC化」の定義は、ECサイトを介した購買だけでなく、企業間の電子商取引も含む。

市場規模/EC化率ではBtoC市場を圧倒する

2020年の経済産業省の調査によると、BtoBのEC市場規模は2019年時点で350兆円を超え、そのEC化率は31.7%まで達している。一方で物販市場ではあるがBtoCの市場規模は19.4兆円で、そのEC化率は6.8%にとどまる。この調査ではBtoCのEC化率は物販系分野約10兆円をベースに算定されているが、その他のサービス系分野やデジタル系分野を考慮しても、BtoB市場のEC化はBtoCよりも進んでいるといえる。

BtoB EC 市場規模の推移(2020年経済産業省調査)

BtoB EC 市場規模の推移(2020年経済産業省調査)

加えてEC化率の伸びもBtoC市場が毎年0.5pt前後であるのに対し、BtoB市場は毎年1pt前後と伸長のベースも速い状況にある。なぜ圧倒的に市場規模の大きいBtoB市場の方が、EC化率が高く、かつその伸びも早いのか。それはBtoB取引ならではの商慣習が大きく変わってきていることが背景にある。

掛け払い慣習によるBtoB取引のペイン

BtoB取引の最大の特徴として、「継続反復の取引で金額が大きい」 ことが挙げられる。特に日本ではBtoB取引は 「掛け払い」 の形態をとっていることが多く、その結果買い手、売り手それぞれに以下のような商慣習が散見される。

売り手

  • 取引の前に買い手の与信調査を行う
  • 請求書の発行が必要である
  • 入金確認、未入金の場合の督促業務などが発生する
  • 納品〜入金までの期間が長い(60〜90日程度)

買い手

  • 企業規模や設立年数で与信枠の確保が難しい場合がある
  • 支払方法は請求書に基づく銀行振込が中心

このような商慣習の存在は、売り手にとっても、買い手にとってもペインの大きな側面があったため、取引プロセスの単体(例:与信だけ、請求書発行だけなど)には、ソリューションを提供するプレーヤーが存在していた。さらに近年では業界内外から、BtoB取引のプロセスを一貫してカバーするプレーヤーの進出も増加している。請求代行を手がける株式会社ネットプロテクションズや株式会社ラクーンフィナンシャルなどはその代表格である。(下図参照)このようなプレーヤーの増加でBtoBのEC化は大きく進展した。

BtoB 決済代行カオスマップ 2019(株式会社ネットプロテクションズ)

BtoB 決済代行カオスマップ 2019(株式会社ネットプロテクションズ)

加えて2020年代に入ってからは、BtoB取引のプロセス自体を大きく変えるサービスも徐々に出現してきた。次項では代表的サービスとして、「法人カード」と「クラウドファクタリング」について触れていきたい。

発行も管理も容易な新しい法人カードサービス

小規模事業者、特に創業したての企業にとって、法人カードを作成するのは難易度が高い。加えて運良く法人カードを作成できたとしても、今度は利用上限額の問題に引っかかり、数十万円で利用がストップしてしまうということも少なくない。

その一方で大企業は別の課題を抱えている。法人カード自体の作成自体は問題ないが、部署や人数が多すぎて、カードを持たせる社員が増えると、支払の管理が煩雑になってしまうということである。また大企業は月次決算のスケジュールが厳格であるため、クレジットカードの場合、明細の確定が月次決算の締めに間に合わないという事象が起こりうることもネックだった。

徐々に法人間取引であっても、WEBサイトを介してクレジットカードで支払えるような仕組みが増加しても、カードの発行や管理自体が難しく、普及のハードルとなっていた。

このような状況を打破できるサービスが、UPSIDERやPaild、stapleなどの法人向けカードサービスである。どのサービスもそれぞれアプローチは異なるが、「発行がスピーディ」「管理画面で利用状況の閲覧や限度額設定が可能」「会計システムへの連携に強い」などの特徴は近く、カード発行や管理のペインを解消できる点としては共通である。

UPSIDER サービス画面(https://corporatecard.up-sider.jp/より引用)

UPSIDER サービス画面(https://corporatecard.up-sider.jp/より引用)

法人カードが普及することで、企業としてこれまで課題となっていた与信の問題を法人カード(厳密にはクレジットカード会社)が担保することになり、購買活動が円滑になっていく。また営業担当の経費精算のような毎月のルーティン業務が大きく削減され、本来やるべきことに時間やリソースを振り分けることができる。特に成長企業においては、少ない人数で多くの業務に携わっていることも多いため、企業として事業成長につながる時間を創出できるといえるだろう。

債権流動化を加速するクラウドファクタリング

法人カードは買い手にとってのベネフィットが大きいサービスとして広がっている。一方で売り手にとってのペインを解決するサービスも広がっている。それが入金サイトを短縮し、キャッシュフローの安定化につながる「クラウドファクタリング」である。

ファクタリングは日本語では、「売掛債権譲渡」と訳されることが多い。具体的には、入金期限まで期間のある債権(具体的には請求書など)を銀行やファクタリング事業者に一定の割引額で買い取ってもらい、現金化することを指している。メリットとしては、銀行融資などに比べより大きな金額の現金化が早く、信用情報機関への情報登録が残らないことがあげられる。日本には1970年代頃に伝来したとされ、金額が大きく入金サイトの長い債権、また小規模事業者中心にニーズがあり、これまでも利用はされてきた一方で、割引率15%以上に膨らむこともあり、ある調査によると事業者の利用経験は3%程度にとどまる。

OLTA サービス比較(https://www.olta.co.jp/ より引用)

OLTA サービス比較(https://www.olta.co.jp/ より引用)

クラウドファクタリングはこれまで対面などで行われていたファクタリングをオンライン上で行い、スピーディに与信審査や支払が行われる仕組みである。サービスとしては、OLTAやMF KESSAIなどが存在する。ファクタリングがこれまであまり広がらなかった要因として、前述の通り割引率の高さがあったが、クラウドファクタリング事業者らはアルゴリズムを駆使して与信審査をスピーディにし、一桁%の割引率で最短1〜2日程度で入金を実施している。また請求書ではなく、ときには契約書などの段階で債権を買い取りし、中小企業を中心にキャッシュフローの安定化に寄与している。

銀行融資やカードローンより優れる側面のあるファクタリングだが、課題も多い。ファクタリング時の額面金額の割引という考え方から、貸金業に抵触する実質の高利貸しをおこなっている事業者も少なくないと言われている。実際に2020年には東京弁護士会が偽装ファクタリング業者への規制を求める意見書を関係官庁に提出した。大手企業やメガバンクの資本参加を受けているクラウドファクタリング事業者は、ファクタリング市場の拡大はもちろんだが、業界自体の健全化の側面でも大きな役割を担っている。

既存の業態の枠組みを超えた新たなサービスに期待

BtoB決済領域には法規制が複雑に絡む。銀行を規制する銀行法、資金の貸し出しを行うための貸金業法、資金移動業(振込や送金)や前払式手段(プリペイド)について定める資金決済法など、関連プレーヤーは多くの法令の規制を受ける。またその規制については、他業界に比べても非常に厳しい。振込や送金を手がける資金移動業の例をあげると、送金滞留する金額の100%以上を供託金として差し入れる必要があり、認可を得るための大きなハードルとなってきた。銀行法によって制約される銀行業については、株主の制限やガバナンスなどさらに制約が多い。

法令の敷居が高い一方で、できることも広がりつつはある。本年5月には資金決済法の改正がなされ、送金する金額の上限ごとに第一種から第三種までに資金移動業が区分され、これまでできなかった100万超の送金が可能になった。これまでわずか79しか登録のなかった資金移動業者(本稿執筆時点)も、送金額が大きくなったことで増加していくとみられる。

米国では法人カードを手がけるBrexが銀行を設立するなど、決済事業者が銀行業に進出する例もある。国内の銀行においてもふくおかフィナンシャルグループが国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」を設立するなど新しい取り組みも目立つ。決済業と銀行業のグラデーションはゆるやかになってきたといえる。

厳しい規制の中で既存プレーヤーと新規プレーヤーが業種の枠を超え、決済や銀行の新たな枠組みが今後数年でできていく可能性も少なくないだろう。

この記事を書いた人
tkrfjwr
bosyu / bosyu JobsのCSやオペレーションを担当。マンガと犬猫とキャンプが好きです🏕
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